ベトナムの犬についてあれこれ

今の日本では犬はペットとしての地位が確立されており、家族の一員として扱われます。場合によっては人様より優遇されている犬も日本の中にはいることでしょう。しかしベトナムで犬の立場は様々です。今回はベトナムの犬に焦点を当てて書きたいと思います。

番犬から愛玩犬へ

今でも田舎へ行けば犬は番犬の役割が多く、小型犬より中型~大型犬がよく見られます。番犬というのは家族の立ち位置ではありませんので、もちろん日本のペットを可愛がるそれとは全然異なります。食べ物もドッグフードといった類のものではなく、その日の家族が食べた残飯を与えるのが普通です。基本的に決まった時間に散歩されるというような世話もなく、頭を撫でて可愛がるということもあまりしません。

一方都市部ではペットとして犬を飼う家庭も増えており、扱いは今の日本のそれと大よそ同じような感じで認識してもらって大丈夫です。小型犬の他にハスキーなどの犬などもよく見られますが、中型犬以上で有名な犬種を飼っている人はそれなりに裕福な家が多いように思います。食べ物も上で書いた番犬とは異なりきちんとしたドッグフードの類を与えています。

犬食文化

(犬肉を出す店。近代的な店構えの犬肉店はなくて、どこもオールドスタイル。圧倒的に男性客が多い) 

ベトナム(特に北部)では犬を食べる文化があります。詳しい犬料理の説明は控えますが、田舎へ行けば法事などの仕出しで犬肉が出ることもあります。私も最近は食べる機会が減りましたが、独身の頃はベトナム人の友人と犬肉の店に行ってよく酒を飲んだものです。ハノイのような都市部でも普通に犬肉の店はありますし、市場などへ行けば犬の丸焼きがテーブルの上に置かれて売られているのを見ることができます。

犬は厄落としの意味合いで食べられることもありますが、旧暦の月初めには食べてはいけないという習慣があり、この時期は犬肉関係の店は一斉に休みになります。かつて友人と犬肉を食べに行くかとなって店に行くと閉まっていて、「ああ、今日は旧暦の月初めだったな。」ということはよくありました。

一応誤解のないように言っておきますと、ベトナム人でも犬肉を食べる人とそうでない人は分かれます。基本的には酒のあての要素が強いので女性よりは男性のほうが食べる人が多いです。また北部と比べると南部の人は元から食べない人が多いですし、そもそも文化的に犬を食べるという習慣がないという人もたくさんいます。

ベトナム政府も国際的に犬食文化に後ろめたさがあるのか、あまり目立つところ(つまり外国人が旅行などでよく行くようなところ)で犬肉を販売させないようにしているようです。また健康面で良くない部分があることを指摘されているようですので、「文明的で国際的なベトナム」を目指すベトナム政府は少しずつ犬肉を食べる習慣をなくしていきたいと考えている節があります。たしかに犬のtiết canh(ティエット・カイン:犬の血を固めて作った豆腐のようなもの)は間違えれば体がやられますので、私もこれは食べないようにしています。

犬取りの存在

犬自体は食用として育てられた犬を肉にする場合もあれば、それ以外のところから調達された犬を肉にすることもあるようです。それ以外のところというのは、例えば番犬として買っていた犬を犬肉業者に売ったり(この辺り犬のペット文化の日本人からする理解不能)、犬泥棒から盗んだ犬を買い取るといった感じです。私のベトナム人の友人はかつて自分が飼っていた犬を犬取りにやられて以降、犬を食べることができなくなったと言ってました。

ベトナムにおける番犬としての扱いや犬取りの存在は日本の昭和中期ぐらいの下町に通じるものがあります。実際私の父も大阪の下町の出身なんですが、似たような話を子どものときに聞いたことがあります。父も当時飼っていた犬を犬取りにやられた経験があるそうで、恐らく犬肉にされたんだろうと言ってました。当時は赤肉と呼ばれて日本国内でも犬を食用として扱う一部の層があったそうです。

そういえば、はだしのゲンで戦後に犬を捕まえて食べるシーンがあったっけな?

かつての犬の扱いは正に家畜でしたが最近はようやくペットとしての地位を築くようになりました。これからもこの傾向は進むと思われ、もう少し経済が発展するとペットとしての色々な犬種が街を散歩するようになるかもしれません。ただし現在のところ野良犬を含めて狂犬病はベトナムにもありますので、管理された犬以外には近寄らないほうが無難です。

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